中国で生まれた動画SNS、TikTok。2021年12月に発表されたヒット商品番付で「TikTok売れ」が1位を獲得するなど、日本でも注目を集めています。
中国本国では抖音(Douyin)の名前で知られていますが、日本のサービスとの大きな違いは「EC機能」が搭載されていること。ブランド公式アカウントの動画やライブ配信から、外部のショッピングサイトに飛ぶことなくそのまま直接商品を購入することが可能です。(日本では現在テスト運用中)
特にライブ配信の訴求力が大きく、2020年10月のスタートからわずか1年で抖音内のEC流通額は18兆3000億円規模にまで成長。今後もさらに伸びることが予想されています。
2022年より、抖音や天猫(てんねこ)を中心に中国マーケットでのEC活動支援をスタートさせたa-works。今回は、抖音のEC事業を立ち上げた経験を持つULTRA SOCIAL代表の高橋さんを招いて、中国マーケットや越境ECについて意見を交わしました。※天猫…2003年創業の老舗オンラインモール、淘宝網(taobao)が運営するECサイト
ULTRA SOCIAL株式会社 代表取締役 高橋亮太さんプロフィール
横浜国立大学卒業後、シャープ株式会社に就職。マーケティング会社で約6年データマーケティングに携わったのち、2018年より日本でTikTokを運営するBytedanceに入社。中国本土への広告配信事業やEC立ち上げを経て、2022年6月にULTRA SOCIAL株式会社を設立。
2020年より抖音にEC機能が追加。コロナをきっかけに中国国内のライブコマースが加速
野山:社内でもよく言っていますし自分のYouTubeでも話しているんですが、さまざまな業種において、日本のマーケットでの勝負が厳しい時代に突入していますよね。現実的に人口は減り続けるので、顧客を獲得するのがどんどん難しくなっている。すでに多くの企業が中国マーケットに注目していると思いますが、高橋さんは元々中国に興味を持っての転職だったんですか?
参考:2022年のマーケティングトレンドを解説!越境ECに目を向けるべき理由とは?【YouTube|a-works野山の働き方相談室】
高橋さん(以下 高橋):実はそうでもなくて(笑)。前職時代、データマーケティングに関わりつつも違う領域の業界で働いてみたいと思っていたときにTikTokを知り、Bytedanceに入社しました。とはいえ当時は本当に単なるショート動画のSNSで、「もうすぐEC機能が追加されるらしい」との噂は耳にしていましたが、具体的なスケジュールは決まっていなかったと思います。
入社してからはTikTok広告のクライアント営業を担当していたんですが、特に化粧品や美容関係のクライアントから「中国の抖音に配信したい」という相談をよく受けるようになりました。でも、当時日本法人では抖音の広告を扱えなかったんですね。
そこで、日本で初めて中国本国のメディアを取り扱うChina Focusチームを設立し、北京、上海オフィスの本社メンバーとも連携した横断体制を構築。
当初DouyinのECを作れるのは現地企業だけだったのですが、海外企業に門戸を広げるという話を中国ECチームから連絡を受け、越境EC構築を日本サイドからも支援することになりました。
四角:2020年のスタートから1年足らずで、中国国内では抖音でのショッピングがすっかり当たり前のものとして受け入れられていると聞きました。
高橋:2020年の抖音ECの流通額が約9兆円、21年は約18兆円を突破し、今も伸び続けています。特に、ライブ配信による購入=ライブコマースがものすごく増えていますね。要因はさまざまありますが、コロナによるライフスタイルの変容がかなり大きな影響を与えたと感じています。
2020年に入ってから中国全域で厳格なロックダウンがおこなわれましたが、その期間は2ヶ月以上に及ぶこともありました。リアルなコミュニケーションがいきなりなくなってしまった世の中において、「ライブ配信」という形態が、オフラインとオンラインの中間に位置するコミュニケーションとして、加速度的に定着したんです。
今や中国国内ではライブコマースが当たり前の文化となっていますが、ここまで急激にアクティブユーザーが増えた背景には、間違いなくコロナの影響があると思います。
「人が情報を探す」のではなく「情報が人を探す」
野山:抖音は、「購買行動を変えた」という点がすごいですよね。日本で話題になった「TikTok売れ」もそうですが、そもそも認識すらしていなかったコンテンツや商品であっても、フィードで見かけて初めて、自分の興味に気づくことができるという。
高橋:これまでのECとはまったく違うアプローチですよね。「ほしいものを検索して買う」のではなく、抖音での買い物体験は「何も考えずに散歩していたらよさそうなものがあったから購入する」といったイメージに近いと思います。
Bytedanceのアルゴリズムは、「人が情報を探す」ではなく、「情報が人を探す」という考え方がベースになっています。これを中国では「インターネット3.0」と呼んでいるんですが、情報が人を探すようになったことで、本人自身も気づいていない「興味あるコンテンツ」を、情報側から当てに行くことが可能になりました。
松本:TwitterやInstagramはフォローしているアカウントを基準にオススメコンテンツが流れてきますが、TikTokはフォローしていないジャンルのコンテンツもバンバン出てくるし、つい見ちゃうんですよね。
高橋:個々のユーザーの好きなものをほんのわずかな情報だけで読み取れることが、Bytedanceのアルゴリズムのすごいところだと思います。闇雲にただおすすめしてるわけじゃないから、新しいものにどんどん出会うことができる。
余談ですが…未だに「TikTokって女子高生が踊ってる動画でしょ」って言われることは少なくないんですけど、それは「あなたがそういうコンテンツが好きだから流れてきてるんですよ」という事実はもっと知られてほしいですね(笑)
四角:(笑)。100人いたら100人とも、表示されているコンテンツがまったく違うということですね。
野山:そうなんですよね。精度が尋常じゃない。
高橋:「情報が人を探す」という考え方が抖音の強みではあるんですが、クライアント営業をしている頃はその点を理解していただくのに苦労しました。マス広告でもインターネット広告でも、「自社やブランドに合った媒体に出稿する」という考えはまだまだ根強いので。
消費者の心理状態を可視化。ファネルごとへのアプローチも可能
野山:これは今もすごく覚えてるんですけど、高橋さんから中国のマーケティングの現状を聞かせてもらったときに「ああ、もうこれは日本は敵わないな」って思ったんですよ。あらゆる面に関して、精度の高さが異次元だなと。ドラゴンボールで例えるならば、人間界の戦いにセルがやってきた感じ(笑)
高橋:それは、僕自身も中国に渡ってから本当に驚いたことですね。
例えば抖音が提供している「云图(ユントゥ)」という統合データプラットフォームがあるんですが、特筆すべき点は、ファネル別の分析ができること。コトラー氏が提唱するカスタマージャーニー「5A」をデータとして見ることができるんですが、これらを可視化したシステムは世界初じゃないでしょうか。
野山:これは本当にすごいと思います。
高橋:仕組みとしては、ファネルごとの定義がものすごく細かく決められているんですが、その定義づくりにものすごく時間がかかったと聞きました。あとはやはり、人口の多さが強みですよね。ベースとなるデータがそれだけ集まるということなので。
野山:中国の人口が14億人で、そのうちネットユーザー数が9億人以上ですもんね。
高橋:2020年時点での中国でのインターネット浸透率は約64%ですが、2025年には80%近くにまで伸びると言われています。
四角:これまでマーケティングに携わってきた人ほど、Bytedanceで扱っているデータの幅と量と精度の高さに驚くと思います。越境EC支援に関わり始めてしばらく経ちますが、こうした情報に触れられることはマーケターとして本当に楽しいですね。
ただやはり、購買行動が日本のマーケットとはまったく違うので、毎日のように新しい悩みが出てきます(苦笑)