写真左:筆者 日高、右:上長 高田
はじめまして、TMG(テクノロジーマーケティンググループ)の日高です。普段は大学院で情報系の研究をしています。
2018年にアルバイトとしてa-worksに入社してから2年ほど働かせていただきましたが、大学院での研究や就活が忙しくなり、2019年12月末で卒業しました。
僕の取り組みは「ビジネスと研究を繋げる」が一貫したテーマで、大学院の研究だけではわからなかったであろう、貴重な学びが多くありました。
また、ビジネスに関することと同じくらい、自分の目標や大事にしたい考え方など、“人生を楽しく生きるために必要なこと”に気付くことができました。
今回は2年間の振り返りも兼ねて、具体的にどんな学びや気付きがあったのかお話しさせていただければと思います。
入社の決め手とa-worksでの研究テーマ
a-worksには友人の紹介で入社しました。大学院で学んだことを活かしたい・就職する前にビジネスの現場に触れたいという僕のモチベーションと、ITの知識を社内に還元してほしいというa-worksの希望が上手くマッチしたのが決め手です。
そして社内では、TMGという部署の中の「アドテクラボ」というチームに所属していました。
アドテクラボは、a-worksの広告事業をITの知見を用いて発展させることが目的のチームで、僕は広告の予算配分最適化に関する研究を行っていました。 企業活動として多くの種類の広告を活用する中で、例えば「どのように予算を割り振れば効果を落とさずに予算の総額を下げられるか?」といった問いに答えることを目的としていました。
研究をビジネスシーンでも活かすためには?
ただ正直なところ、研究の序盤はビジネスとして結果を求められることに慣れていないこともあり、うまく進められていませんでした。「ビジネスと研究を繋げるためにはどうしたらいいんだろう?」と毎日考えていたことは、今振り返っても鮮明に思い出すことができます。
一概には言えませんが、アカデミックの研究は手法の提案で終わることも多いです。また、重視しているのは過程であり、ロジックの積み重ねや提案に対する検証も厳密でスピードが出にくいです。それゆえ、その分野内では素晴らしい研究成果でも、一般的には誰でも知っていることを証明しただけになったり、机上の空論のようになってしまうこともあります。
それに対して、ビジネスではスピードと成果が要求されます。結果が全てと言っても過言ではないでしょう。ビジネスと研究の融合、産学連携で上手く行っている例が少ないのはこういった考え方の違いも原因だと僕は考えています。
そんな中で“ビジネス”の現場で“研究”をするという機会に恵まれたのは運が良かったです。「どういった研究テーマを、どのように進めればビジネスでも活用できるようになるか」という部分については、何となくイメージがつくようにはなりました。
現状の結論にはなるのですが、ビジネスと研究の繋げ方の鍵となるのは、“手段への執着を捨てること”と“こまめな要件合意の積み重ね”なのかな、と思っています。
ビジネスの現場で研究をするということ
ところで、アドテクラボではおよそ半年に1回「アドテクラボ報告会」という形で研究成果の社内報告を行っていました。
これまでも研究した成果を学会などで研究者の方を相手にしたことは何度もありました。しかし、ビジネスパーソンへの発表経験はほとんどなかったので、第1回目の報告会での質疑応答はタジタジでした。
研究の手法や内容を専門外の人が理解できるように説明することができても、マネタイズやビジネス化、その研究が世界ではなくa-worksという1つの会社にとってどのように役立つかなどは、納得してもらえるような回答ができませんでした。ビジネスパーソンは成果(結果)を聞きにきているのに対し、僕は手法(過程)を重視していたためです。
初め、この感覚の違いにはかなり苦労されられました。僕の行っていた広告の予算配分最適化の研究は、一般的なアプローチの場合、データが揃わないと成果を用意するのが困難だからです。
上司から学んだビジネスと研究の繋げ方のヒント
そんな中、上司の高田さんとは「研究としてもビジネスとしても良い成果を挙げたい」という話をよくしていました。高田さんはビジネスと研究のバランス感覚が優れており、人格も素晴らしくて自分もこうなりたいと思える理想の上司でした。
常に「どうすれば高田さんのようになれるか」「高田さんにあって自分にないものは何か(逆も然り)」「高田さんならこんな時どう考えるだろうか」を意識していました。
そして自分よがりにならないように高田さん目線を意識し続けた結果、手段への執着が消え、ビジネスで研究を活用するための視点の転換が起こり始めます。
まず、試行錯誤する回数を大幅に増やしました。さらに、俯瞰して「何のために今動いているか?」を意識するようにすると、不要な部分・もっと簡単に解決できる部分がわかります。加えて、進捗報告を細かくすることによりビジネス要件とのズレをこまめに捕捉するようにしました。
この変化が、僕が2年間の経験で得た“ビジネスと研究を繋げる”ための最大の学びです。具体的に、以下のように研究の進め方を変更しました。
研究の目標として、
- データを仮定して、この研究が実現すればどんなことができるかを示す
進め方の方針として、
- 難所やタスクは細かく分解
- マイルストーンを設置し、進捗はこまめに相談
- 常に全体を俯瞰で見て優先度を意識
この進め方はお世辞にも真面目とは言えない自分の性格にも合っています。
高田さんとのミーティングではa-worksでの業務のことだけではなく、大学院での取り組みやプライベートの話もしていたので、僕のことをよく理解してくださったのだと思います。
仕事を楽しむマインドを持ち続けた結果、コンペ入賞へ
広告予算の無駄を減らし、費用対比効果の高い広告を見つけるには、大量のデータを用いたアトリビューション分析や、ランダム化比較試験によるインクリメンタリティの計測が主流です。
ただし、それらの手法は大量の広告データや予算があることが前提になります。a-worksのビジネスとして予算配分最適化を事業化する場合、上記の手法は現実的ではないので、別のアプローチとしてシミュレーションからデータを作ることを考えました。
ただ、シミュレーションは専門外というのもあり、ビジネス研究の進め方とシミュレーションの技術の両方を取得すること主目的としたマイルストーンとしてMASコンペ(株式会社構造計画研究所主催のマルチエージェントシミュレーションコンペティション、シミュレーションをテーマにした研究の成果報告会)に出ることにしました。
そして研究(シミュレーション)のテーマとして、当時社内で問題となっていた業務効率化、社内Q&Aツール導入の是非についての検証を選びました。
なぜこのテーマを選んだのか。当時a-worksの既存事業の内、技術的な部分はの多くをTMGが担当していて、社内外の技術的なトラブルの対応もTMGが行っていました。そのため、TMGのメンバーは割り込みタスクが多く、自分の業務に集中できていないように見えました。
こうした状況の改善のために社内Q&Aツールを導入する対策もありますが、局所的にいえば、口頭で質問したほうが早く解決するケースも多いんじゃないかと思っています。
こうした背景もあって「Q&Aツールによる業務効率化は職場の規模・メンバーの知識量の違いによってどのくらい効果が変わるのか」というテーマで研究を行いました。研究結果としては、職場が数十人以上の規模であったり、メンバーの知識の差が激しい場合はQ&Aツールによる業務効率化が見られるという結果になりました。
この研究成果をMASコンペ(第19回マルチエージェントシミュレーションコンペティション)でポスター発表し、優秀賞をいただきました。
>>第19回MASコンペティション 結果発表
既存研究がないテーマだったので初めは苦労したのですが、仕事でよくある問題を抽象化してシミュレーションに落とし込む、というのはたまらなく面白かったです。
MASコンペを通じて学んだ発表の技術やシミュレーションの知見・ビジネス研究の進め方のスキルは本命の広告予算の最適化の研究でも発揮され、最後のアドテクラボ報告会は自分やTMGとしても、社内的にも大成功だったと感じています。
正直なところ、序盤の報告会の直後は研究の良さを理解してもらえない不満感がちょっとあって、ビジネスと研究はやはり相容れないものなのかと思ってやや憂鬱になることもありました。しかし、MASコンペやその後の研究を経て、ビジネスと研究の融合を強く意識するようになってからの第3回の報告会は、ビジネス目線で聞いてもらえるのが楽しみという気持ちの方が強かったです。
与えられた仕事を嫌々するのではなく、スキルアップ・楽しめるよう仕事を自ら作り出す・作り変えるというのは入社時に高田さんから教わったマインドで、研究を仕事にするなら本当に大事な考え方だと思います。
チームでの活動で見えた「本当の目標」
いちアルバイトである自分がここまで熱量を持ってa-worksでの業務に取り組むことができたのは、高田さんだけでなくTMGのメンバーの影響もあります。
たとえば、TMGは面白いと思った本や記事だけではなく、自分がやった工夫やしてしまったミスの内容をよく共有していました。また、会議では他の人のいい仕事を積極的に褒めたり、毎日自由に勉強していい時間を一部設けているなど心理的安全性が高く、僕の知る限り、本当に理想的なチームでした。
特に印象的だったのは、TMGで実施していた「トラストビルディング」というイベントに参加したときのことです。
トラストビルディングでは、相互理解を高めるという目的で、各メンバーが自分のバックグラウンド・個人ミッション・ビジョン・好き嫌い、得意不得意を存分に語ります。
他のメンバーについて知って得たものもたくさんあるのですが、それ以上に自分を見つめ直すのにとても良い時間でした。平たく言えば就活の自己分析に近いことなのですが、自分がどういう人間でどんな風に働きたいかなど、考えても分からないような自身の本音に気付くことができました。
それは「皆が自分の得意・好きなことにコミットすることが、全体としての最善になる環境を作ること」が自分の目標であり、この目標に向かっているときが楽しい、というものです。
それまで、僕は自身のことを自分本位な人間だと思っていました。ただそうではなく、自分の生きるモチベーション・やりたい仕事と他人の幸せとが大きく関係していて、それが社会的にも有意義であることがわかったんです。
さいごに
a-worksでは、普通の学生アルバイトでは到底あり得ないような経験をさせていただいたと思っています。
先程「ビジネスと研究を繋げるためには、“手段への執着を捨てること”と“こまめな要件合意”が必要。試行錯誤する回数を増やし、何のために今動いているかを意識しながら動くようにすると、不要な部分・もっと簡単に解決できる部分が見え、さらに要件の合意をこまめにすることにより、要求されている成果とのズレが分かりやすくなる」と述べました。
これはつまり、PDCAのサイクルを高速にして回転数を上げることと同義です。小さな成果物を作ることを目標に研究(仕事)を進める。このa-worksでの経験を大学院やインターン先でも逆輸入して上手くいきました。
以前は大学で研究していて「こんな研究して何になるんだろう?」と思ってしまうようなことがありました。しかし、a-worksで働いて研究の活かし方について意識するようになった今は、どうすればこの研究がもっと面白くなるだろう、どうすればビジネスに繋げられるだろうというポジティブな気持ちで研究に取り組んでいます。
a-worksはビジネスと研究をもっと楽しくする方法を教えてくれました。また、a-worksで得たスキル・マインドは自分の人生を豊かにするだけではなく、他の人が困っているときにも必ず役に立つだろう、という確信を持っています。
2年間本当にありがとうございました!
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